8.ガンダムシード−III−


「ガ ンダムシード−III− ロボットアニメ編」


−日本のロボットアニメ−

ガンダムシードの世界を、『真田軍記<コラム7>ガンダムシードU』にて、各人物のキャラクターを通して、どのようなガンダムであったかを述べてみたが、 今回は「ロボットアニメ」としてのガンダムシードを見ていこう。

”空にそびえる 黒金の城
 スーパーロボットー マジンガーZ♪”

日本アニメの得意分野である「ロボットアニメ」は、少年やそれを見て大きくなった青年や大人にも人気なジャンルである。
上にあげたマジンガーZの主題歌にある「スーパーロボット」と呼ばれるものが、ロボットものアニメ(巨大ロボものと言うべきか)と”イコール”であった。

この「スーパーロボット」は簡単に言うならば、ありえないロボットであり、あくまで「架空のもの=アニメ」と言う初期〜中期のアニメである。
何とかビーム(光線)で敵ロボットを倒し、ロボットの体内に内蔵されたミサイルをロボットの容量以上に撃ちまくり、動力源も不明。
構造も、間接は何故この形状で曲がるのか??と言うロボットが多い、ビー!ドカーーン!!ズガガガガ!ってなカンジがロボットアニメであった。



−スーパーとリアル−

「スーパーロボット」と言うそれまでのロボットアニメに対して、新しいロボットアニメを提示したのが「機動戦士ガンダム」である。
巨大ロボットである以上、”架空”であるのは否定出来ない要素だ。しかし、何故ロボットが存在するのか、と言う虚構を科学的に、真面目に設定をし、そのア ニメの世界を構築しているのだ。

嘘や虚構、と言っては悪いが、それはアニメを見るものを、または見ている間、その世界に引き込むための主要素である。
それを細かく、いかにも本当にあるかの如く設定しているアニメが「リアルロボット」と呼ばれるロボットアニメだ。
「リアルロボット」は「スーパーロボット」に対するアンチテーゼであった。
すなわち「ガンダム=リアルロボット」という構図なのだが、リアルロボットの先駆者であるガンダムは、その「スーパー→リアル」の過渡期であるため、スー パーロボットとしての要素が多分に残っている。

○スーパーロボット
・万能ロボットガンダム
・ザクレロ
・Gアーマー
・シャアのマスク&ヘルメット

○リアルロボット
・ザク
・量産型&型式番号
・軍隊組織
・ラグランジュポイント

○中間?
・ミノフスキー粒子

と、簡単にガンダムにおけるスーパーロボットとリアルロボットの要素、要因をあげてみたが、ガンダムの設定の根幹は「ミノフスキー粒子」なのだろう。
双方の掛け渡し?とでも言うのだろうか、このミノフスキー粒子(ミノフスキー物理学という。もちろんガンダムの世界だけの話)が、ガンダムの世界を広げ、 今もガンダムが存続している理由だ。

ガンダムがガンダムとしての所以、リアルロボットの先駆者としてのガンダムが、どのような『ロボットアニメ』だったのか、そして「ガンダムシード」をその 視点から見た場合どのようなアニメだったのか見ていこう。



−1stガンダム−

第1話で、ジオン軍のMSザクが宇宙コロニー内部で戦闘を行い、連邦軍は為す術が無かった。
その戦いの最中、主人公アムロは連邦の新鋭モビルスーツ(以下MS)ガンダムに乗ることになる。
ガンダムはザクの持つ120mmザクマシンガンの銃弾の直撃を受けてもビクともしないのだ。

度肝を抜かれたと言って良いだろう。

これも、単にチョー強い主人公ロボだから!ではなく、ガンダムの装甲素材が「ルナチタニウム」と言うチタン合金で、後に「ガンダリウムγ」と呼ばれる素材 をハニカム構造で使用しているからだった。
後に、ジオンの新型陸戦MSグフとの戦いでは、ガンダムの誇る装甲も叩き斬られてしまうのだ。
またジオン軍がMS用ビームライフル等の開発に成功してからは、装甲の優位差、機体の性能差は、関係無くなってしまう。

ビームライフルはザクを一撃で撃破するだけの威力があるが、エネルギーは16発と限られている。

地上で、空中を飛ぶ敵機には、バックパックのスラスターを使って数秒間空中に浮き、空間戦闘を行い撃破した。
水中ではビームライフルのビームが減退して使用出来ないので、非常に苦戦したが、運用は可能だった。

対してジオン軍は、ニュータイプ専用兵器として「サイコ・コミュニケーター」略して「サイコミュ」を利用した兵器を開発する。
これはニュータイプの持つ高い精神感応力でもある、脳波を利用した兵器で、その脳波で直接兵器をコントロールするものだ。
もちろん、一般の人間には扱えるものではない。

ガンダムの万能ぶりはスーパーロボット的だが、サイコミュ兵器など、リアルロボットにして意欲的な試みもされている。
パイオニアとしてありながら、このあり方は四半世紀以上経った今でも1stガンダムが色あせていない理由でもある。



−ガンダムシード−

一方のシードはどうだろう。
MSを持たない連合は新型MSガンダムを数タイプ開発した。主人公機であるストライクガンダム以外はザフトに奪取されてしまうのだが、このガンダムが チョー無敵だ。
敵のライフル、ビームもマシンガンの直撃に耐える事が出来る。
1stの様に強い素材の装甲だからではなく、その装甲に「フェイズ装甲」と言う一種のエネルギーシールドを施してあるのだ。

ここからして、実にスーパーロボット的だ。
1stガンダムと同じく、1話で敵の強襲を受けるが、ストライクは敵のMSジンの攻撃を全く受け付けない。
雑魚MSのジンのサーベル(実剣)だからだ、と思っていたら、そうではない。
奪還されたストライクとの同型種のガンダムのビームライフル等の攻撃も、そのエネルギー(電池だ!)が切れるまで、ムテキングタイムが続くのだ。


※ストライクを始めシードのMSは電池で動いている。
 これはプラントが地球連合側が核攻撃で虐殺を行った為、核を使ったあらゆる活動を禁止させる兵器「ニュートロンジャマーキャンセラー」を地球に大量に撃 ち込んだ。
 このため宇宙世紀ガンダムの主動力であるヘリウム3型の核融合炉等の、核動力(原子力発電)が使用出来ないのだ。


この「フェイズ装甲」の位置づけが不明なのだ。先ほどムテキングタイムと言ったのだが、エネルギーが切れると、当然撃破される。
だが、エネルギーの続く範囲ならば、ビームだろうが、ミサイルだろうが、実弾、実剣の攻撃をも防ぐのだ。

劇中、至近での直撃をくらいそうになると、「撃破される!」と言うシーンは幾度かあるのだが、その都度都合良く攻撃をかわしているので、実際至近での直撃 シーンは無い。

結局、フェイズ装甲は無敵のままだ。特にニュートロンジャマーキャンセラーを搭載し、核エンジンを使用できるフリーダムガンダムと、ジャスティスガンダム はそのムテキングタイムが無限に続く。
この無敵ガンダムと、連合の作ったガンダム、レイダー・カラミティ・フォビドゥンの各ガンダムもフェイズ装甲を有している。
その為に、ビームを直撃させても撃破出来ずに、無意味な戦いが繰り広げられるのだ。

ついでにいうなら、連合のガンダムのデザインと運用形態も、どちらかというとスーパーロボットな範疇だろう。
そしてフリーダム、ジャスティスの両機も、ストライクガンダムよりも多分にスーパーロボット的である。

結局、連合のガンダム3機は話の都合で、撃破されてしまう。フェイズ装甲のはずなのだが・・・。



−量産MS−

1stのザクはロボットの最高傑作である。アニメ史に語り継がれるそのデザインは見事である。
ぞして、ザクこそリアルロボットとしての大きな要因の1つ「量産型ロボット兵器」なのだ。
そしてその量産型と同系統ながら、「指揮官用ロボット」と言うカテゴリーが作られた事は衝撃の一事であった。

スーパーロボットにおける敵ロボットとは一線を画している所以だ。

ザク以降に登場する量産MS、ドム、ゲルググ、兵器開発競争という大局がその背景に描かれている、これもリアルロボット的だ。
そして局地的な改装等で生まれた各派生MS、地上型に適したザクのJ型、グフ、水中型MSゴック、アッガイ、ズゴックなど枚挙に暇がないが、これらのリア ルロボットとしての要因は、新しいアニメを求めていたアニメファンと、ミリタリーマニアの双方を取り込むことに成功したのである。


シードの量産型MSは、まずジンがあげられる。ザクと同様に汎用性が高く、地上でも使用されているザフト軍の主力機だ。
ジンにも指揮官用タイプのジグーが存在する。ラウル・クルーゼが搭乗するのだが、これは全くいい見せ場がない。

脚本と演出の失敗だろう。

デザインは見事だと思うだろうが、その劇中の扱われ方、戦いぶりによって見る者への印象は大きく違ってくる。
1stのズゴックは、傍目から見れば、鈍重なデザインで、平らな顔、と受ける要素は全く無いのだが、シャアが搭乗する赤いズゴックの衝撃シーンによって人 気MSになった。

1stのMSは、各MSに様々な見せ場が散りばめられており、各MSとも今でも人気の高いMSなのだ。

結局、シードと言うアニメが、主人公キラと、彼を取り巻く極周辺の話で終始してしまうので、敵であるザフト、連合の量産MSにまでスポットライトが、全く 当たらないのだ。
ジンの後継機、ゲイツが出ても、はっきり言って分かる視聴者は少ないだろう。”分かる”と言うのは後継機が出て何が変わったのか、だが。
シードで敵MSで注目させられるのは、同じガンダム系のMSだけであり、ガンダムを敵味方に搭乗させているために、ガンダム同士の戦いが中心になってしま う。

そうなると、チョー強いフェイズ装甲を持つもの同士、スーパーロボット的な戦いになってしまう。
最初のコンセプトと、その後のストーリーの流れが、多分にリアルロボットよりもスーパーロボットなのだ。



−ガンダムを継ぐもの−


ガンダムシードという世界、大きく広げられたその世界は、一見、ガンダムとしての要素が満たされているようにも見える。
その広大な世界、しかし、劇中にあてられるそのカメラは、浅く狭い。
『真田軍記<コラム7>ガンダムシードII』にてあげたように、ストーリーとしてのピントが合っていない。
その為に、MSも、ガンダムの売りの1つ「量産型MS」も、全く埋没してしまっている。

そして、そのガンダムも「フェイズ装甲」という、無敵バリアが張られているので、とてもリアルロボットの範疇には入らないだろう。
最終局面で、フリーダム、ジャスティスの主役両ガンダムが、両肩と腰のビーム砲、そして手にマウントするライフルで、敵を一斉に撃破するシーンは、完全な スーパーロボットである。
素早く動く敵に対してビームを直撃させることは、至難である。1stには幾度となく、その事が語られているが、フリーダムガンダムは、その動く敵を数機、 もしくは十数機をまとめて撃破、しかもコクピットの直撃をさせずに、行うのだ。

恐らく作り手が考えたガンダム、ただのスーパーロボットだが、この子供が考えた程度のロボットに、自己陶酔しただけの駄作なのだろう。
「俺の考えたガンダムは、むっちゃつよいぜー!」
的な物でしかないのだ。

敵兵を殺したくないため、コクピットを外して攻撃する行為は、『蒼き流星SPTレイズナー』の主人公が行っていたが、彼は自らが撃破される危険を、常には らんでいた。
自らの理念を貫くために、ハイリスクを背負っていたのだ。シードとは違って、物語への姿勢が真摯であろう。


ガンダム以後のアニメには、量産型兵器も登場し、ガンダムの持つリアルロボットの要素を、独自に発展させていった。
現代兵器の沿線上に可変ロボットを発展させた『超時空要塞マクロス』シリーズ。MSというロボット兵器のサイズを見直し、アーマードトルーパー(AT)と 言う独自のロボット兵器を生み出した『装甲騎兵ボトムズ』など。
いちいちあげれば枚挙に暇がない。

ガンダムが先鞭をつけたリアルロボットの種は、花開いて現在まで咲き誇っている。日本のアニメ史上に燦然と輝いているロボットアニメは、リアルロボットの 系譜を引いているのだ。
そしてガンダムの名を冠しているガンダムシードは、リアルに見せかけて(と言うほどでもないが)、その実はスーパーロボットである。

シードも1stと同じく、「MSV」すなわちモビルスーツバリエーションの展開と、話もTV版以外にガンダムシードアストレイとして、シードの世界の発展 を見せているが、1stと根本的に違い、ファンの側からの要求に応えたのではなく、作り手からの一方的な仕掛けだ。
この試み、1年後あたりに、「成功した」と言えているのだろうか?


シードの種が、花開くか、永遠に種のままなのか、答えはまだ少し先だろう。
すくなくとも、今の時点では花は咲いていない。





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